学校が「残業するサラリーマン」を育てている?①

授業も「時短」を進めたほうがいい
藤原和博(以下、藤原):山本先生は、例えば普通の先生が教科書と黒板で30分で伝える文法の知識があったとしても、もう板書もしないわけですよね。端的に言うと、30分かかることをもし10分で教えられるのなら、授業の時短が可能です。
 僕は授業の時短研究を若手の先生を中心にしてもらってるんですが、(教科書と黒板で30分かかっていた特定の知識を)10分ですり込める動画がネットのあちこちにあるはずなんです。
 例えば、太陽系というのは、太陽の周りを地球が回っていて、地球の周りを月が回っているのは分かるんだけど、そう教えられると太陽が静止しているように思えてしまう。でも実際には太陽系はすごいスピードでらせん運動している。そのらせん運動をどれくらいのスピードでしているかを実感できる映像というのがあるんです。
 著作権をクリアしなければいけないという問題を横に置いて考えれば、そういった映像を10分間生徒に見せると、すぐ分かる生徒と分からない生徒が瞬間的に分かれると思う。次の10分で分かった生徒が分からない生徒に教える。学び合いですね。それでも分からない子には、先生がフォローする。これもアクティブ・ラーニングになるんじゃないかと思うんです。
 知識的な素材は動画であらかじめ与えちゃって、そこから10分から15分学び合い。調べてもいいんだけどね。それで分かったやつが教える。教えるということは知識が定着したということ。最後に5分間スマホでテストして、知識が定着したかどうかを見る。
 授業時間は通常50分でしょう。でも、こういったアクティブ・ラーニングなら、授業は30分で終わるんじゃないかと思うんです。時間割を組んでみたら、7時半ぐらいに授業を始められれば、午後1時までに全部の授業が終わる(笑)。
山本崇雄(都立両国高校):終わりますね。
藤原:そうすると、そこからさらにアクティブになれる。何をやってもいいんだもん。
山本:さらに知識を探求してもいいんですね。
藤原:部活も午後1時から思い切りやればいい。3時間から4時間はできるでしょ。芸術活動でもいい。部活を預かってない先生は3時半に帰れる。欧米の先生なんかみんなそうだから。それで自分の地域社会へ帰ってサッカーの指導をしたり。
 例えばフィンランドの先生なんて、だいたいみんなマスター(修士)だから、自分の地域社会で(例えば歴史の)講座を持っていたりする。それでお金を取ったりもしてる。ダブルインカムOKなんですよ。それから夏休みが2カ月はあるじゃない。その間、自分の住む地域社会の校外学習や合宿のアテンドをしてお金をもらったりもしている。
 いいと思うんです。そういうのがワークライフ・バランス。もしそうなったら女性の先生ももっと働きやすくなるでしょ。
 今、ワークライフ・バランスとかいって会社で残業をしないようにしようと言っているじゃない。だけど子供たちは小学校、中学校、高校で、目の前の先生がどういう状態かを知っている。
――先生方はものすごく忙しくて、朝から夜遅くまで働いているということですよね……。
山本:日本の先生たちは、生徒が頑張るんだったら自分も頑張らないと、と無理しちゃうんです。僕はそれがいいか悪いかというと、働き方としては悪いと思っている。
藤原:難しいところですけどね。
先生の「教えるのが好き」が障害に?
山本:生徒が頑張るから休み返上で頑張るというのは、やっぱりバランス的にはよくないとは思うんですよ。だけど現実はそうですよね。日本の学校はそれで支えられている部分というのは、やっぱり強くある。
山本崇雄氏
藤原:確かに先生は忙しい。事務的にも忙しいし、夏休みも忙しい。土曜日も補習だし、部活をやっている先生は夜9時まで働いている。目の前で先生のあの忙しさを見せていたら、自動的に将来、残業するサラリーマン、残業する官僚を育てていることになります。
――確かに……。
藤原:授業を何としても効率的にする必要があるんです。それがアクティブラーニングの究極の姿じゃないかと思う。誤解を恐れずに言えば、授業の時短です。動画の活用と、山本先生がやっている助け合い。最後は知識が定着したかどうかのテストもすごく軽くスマホでやる。それで30分。そうすると午後1時までに7コマ終えられるの。
山本:大きな障害は、先生は教えるのが好きだということです。
藤原:それ、分かるけどね。
山本:それから、「教えたい」から先生になったという人も多いのではないでしょうか。そういった先生は教える時間を奪われることを恐れているようにも感じます。
藤原:これが問題の本質かな(笑)。
山本:アクティブ・ラーニングを成功させるための究極の方法は、中間・期末考査をやめることだと思います。定期考査がなくても学び続ける生徒を育てなければいけない。
 テストをやめてみて、自分の授業の本質は何なんだろうとみんな考えだしたときに、多様な授業のアイデアが生まれてくる気がするんですよね。
藤原:日本の教育を次のステージに載せるのに何が障害になるかということについて、山本先生は誠に端的な話をされているのですが、ここを変えるのは結構大変ですね。
山本:テストも行事も去年もやったから今年もやるとか、例年やっているからやめられない、といったことが多いと思います。学校現場ではやることが目的化されていることが多い。藤原先生もおっしゃったように、前例があるからやるというのは僕はやめた方がいいと思っています。今、子供たちに本当に必要な力をつけさせるために、本当にそれが必要なのかどうかということを一つひとつ見ていかなきゃいけないと思うんです。
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森浩平