視点・論点 「学校が地域を変える」②

(①のつづき)
NHK 解説委員室 解説アーカイブス  より転載です。
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また「一人ひとりの力を伸ばす教育環境の整備」にも力を入れました。今までは、「島にいると、学力が伸びず大学進学に不利」という考えが根深くありました。こうした状況を打破し、離島であっても学力が伸び、島外に出なくても進学希望を実現できる環境整備が必要だったからです。
そのため、今まで弱みだと見られてきた「小規模校」ということを、一人ひとりに手厚い指導が可能な少人数制という強みと捉えなおしました。充実した少人数教育を展開する高校-地域連携型の寺子屋隠岐國学習センター」も新たに設け、一人ひとりの学力と人間力を伸ばすプログラムを進めています。
また、プロジェクトの重要な柱の一つが、全国から意欲ある多彩な生徒を募集することでした。
島の高校には「刺激や競争がない」「多様な価値観との出逢いがない」「新しい人間関係をつくる機会がない」といった不満の声が、島内の中学生と多くの保護者にあることがわかりました。そこで全国から入学生を受け入れる「島留学」を開始しました。島の子どもたちや学校、地域に良い刺激をもたらしてくれる意欲や力のある生徒を対象としています。
プロジェクトの成果は、思いのほか早く、出始めました。たとえば、「島の魅力なんて考えたことがなかった」という島内出身のある生徒は、島留学で来た生徒たちが「島前っていいよね」と言うのを聞くうちに、気づかなかった島の魅力を再発見できるようになり、将来は「島の観光業を元気にしたい」と話しています。
大阪の進学校から島前高校に来た生徒は、島内で常に成績が一番だった地元の生徒よりも上の成績をとりました。テストで負けたことが、島のその生徒の心に火をつけ、二人は良い意味でのライバルとして、切磋琢磨するようになりました。彼らの勢いは、学級全体の雰囲気を変え、他の生徒の学力も伸び、生徒の3割が国公立大学に合格するという今までの島前高校では考えられない進学結果になりました。
プロジェクトを開始してから入学希望者数はV字回復を果たしました。島前高校への入学者数は増え続け、平成24年度からはへき地の高校としては異例の学級増となりました。
現在は在校生の約4割強が東京や京都、ドバイなど島外から来た生徒で、地域活性化国際貢献など多様な興味関心を持った島外の子が入学するようになっています。
島留学生が増えたことで、赤字続きだった寮は定員を超え、新たな寄宿所の建設が必要なほどになりました。親も一緒に移住するケースや、島前高校に入れたいという思いを持って小学生や中学生を連れて教育移住する家族も出てきています。こうした影響もあり、60年間一貫して減少を続けてきた海士町の人口はこの数年間増加に転じています。
こうした結果により、島前高校へは全国の学校や行政、研究機関、民間企業等からの視察や研修が相次いでいます。島根県を始め、他の都道府県でもこうした活動を展開する高校や自治体が出るなど、この動きは各地に広がっています。
これまで地域づくりの文脈において教育や学校というものはあまり注目されてきませんでした。しかし「ここで子どもを育てたい」という教育ブランドを築くことで、子育て世代の若者の流出を食い止め、逆に子連れ家族のUIターンを呼び込むこともできます。教育には、地域を変える大きな可能性が秘められています。
資源の乏しい島国においては、ヒト・ワザ・チエこそが最大の資源であり、箱物づくりから人づくりへ軸足を変えないことには、生き残れません。これは島前をはじめとする過疎地域の実態であると同時に、これから日本全体が直面していく大きな課題でもあります。
この島前での試行錯誤から見えてきたものが、同じような課題を抱える多くの学校や地域の活性化に向けた、一助となることを願います。 
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(転載おわり)



孫市