日本の教育、「皆同じでなければ」への違和感

リンク
■どのように座るかは子どもたちの自由
本の学校における「授業」といえば、黒板に向かって整然と並べられた座席に子どもたちが着席し、教師の話を静かに聞いている――そんな風景が思い出される。たまに教師が、「これ、わかる人?」と質問を投げかけ、子どもたちが慌てて目をそらす、といったあたりまでセットで連想する人も少なくないかもしれない。
ところが、「ドイツ生まれ、オランダ育ち」である「イエナプラン教育」の学校では、こうした一斉授業と呼ばれる形式の授業が行われることはほとんどない。そもそも、子どもたちの座席も日本のように列をなしているわけではなく、なんとなく3~4人が机を合わせて“島”をつくりだしているだけ。どのように座るかは子どもたちの自由で、特に教師から指示があるわけではないという。
「そんな自由に座らせたら、子どもたちは静かに勉強などするはずないでしょう」
本の学校風景を思い浮かべると、どうしてもそんな疑問が湧いてきてしまうが、目の前の子どもたちは黙々と机に向かっている。いったい、どんなことをしているのだろうと机の上をのぞきこんでみると、各自が取り組んでいることはバラバラ。3ケタ-3ケタの引き算を練習している子もいれば、イラスト入りの本をパラパラとめくっている子もいる。
あれ、今は自習時間なのかな……。答えは、半分YESで半分NO。確かに「自習」には違わないのだが、これは決して特別な時間ではない。イエナプラン教育では、あらかじめ子どもたちが自分自身の興味・関心や得意・不得意などを考慮しながら「マイ時間割」を作成し、その時間割に沿って学習を進めていくのだ。
■子どもたちの学びを「サポートする人」
教師は何をするのか。イエナプランでは、教師が黒板の前に立って(そもそも教室に黒板がない)、大声を発するといった場面を目にすることがない。子どもたちが各自の課題に取り組んでいる間を静かに歩き回り、時に小さな声で言葉をかけたり、子どもたちから個別に寄せられる質問に答えたりする。日本の学校における教師が「教える人」ならば、イエナプラン教育における教師は、子どもたちの学びを「サポートする人」という位置づけであるように感じた。
ここまで読んだ読者の皆さんは、おそらく「自分で時間割をつくって自分で勉強するなんて、小学生に可能なのだろうか」と、彼らの自律性をいぶかしむのではないだろうか。実は、私も同様の疑問を抱いていた。「ところが可能なんです」と石原さんが解説してくださった。
「もちろん、日本の子どもたちにいきなり同じことをやれと言っても難しいと思います。たとえばイエナプランでは、低学年の教室の壁に『外で遊ぶ』とか『本を読む』といった紙を貼っておいて、子どもたちは登校すると、その日に過ごしたい内容のところに自分の名前が書かれたキーホルダーを引っ掛けておくんですね。そうした自己決定の積み重ねによって、学年が上がったときに自分で時間割を組めるような子に育っていくんです」
なるほど、「イエナプランは一日にしてならず」というわけだ。
耳栓代わりとしてヘッドホンを使っている子がいる
それにしても学習に取り組む子どもたちは自由だ。おしゃべりしている子こそいないが、座席から離れて教室の外にある教材を手に取って眺めている子もいれば、なんとヘッドホンをしながら作業をしている子もいる。
(中略)
そこで、別の疑問が頭をもたげてきた。もし、彼らのように雑音を遮断するための耳栓という用途ではなく、「音楽を聴いたほうが学習ははかどる」という理由でヘッドホンの着用を求めた場合、それも認められるのだろうか。
答えは、「まずは、子どもとよく話し合う。本当に音楽を聴きながらのほうが学習にプラスになるということであれば、特に止める理由はない」というものだった。ヘッドホンから音が漏れるなど、ほかの子どもにも迷惑が生じる可能性がある場合は、クラス全体で話し合うことになるという。
(中略)
■“みんなが同じ”であることを重視する日本の教育現場
(中略)
「どのような学び方で」「どのような教材を用いるのか」まで“みんなが同じ”である必要があるのだろうか。子どもたちの理解力や興味・関心、そして認知の強弱にはそれぞれ特性があるのだから、子どもたち一人ひとりが自分に最も適した教材や学び方で到達目標を目指すことのほうが理にかなっているのではないだろうか。
最後に、ドミニク校長に話を聞くことができた。
■誰もが強みと弱みを持っている
――この学校で子どもたちに身に付けてほしい力は何ですか?
「まずは、“私は誰なのか”を理解すること。それには、自分の強みと弱みを知ることが必要です。そうして、彼らは自分だけでなく、誰もがそうした強みと弱みを持っていることを自然と学んでいくのです」
――誰もが強みと弱みを持っている。そのことを学んでいくわけですね。
「そのとおりです。さらに、この学校では自分の責任で計画を立て、判断し、決定をしていきます。そして、それらを周囲がきちんと尊重してくれる。そうした積み重ねによって、子どもたちは自己肯定感を育んでいくことができるのです」
■イエナプラン教育の課題は?
――あえてイエナプラン教育の課題を挙げるとすれば何でしょう?
「教員と保護者と子ども。この三者がいかに良好な関係を築きながら、連携をしていくか。教員が親の目線に立たないで教育を押し付けたり、親が教員の目線に立たないで要望を出してきたりということもある。そんなときは、両者で話し合いを持ちながら、どこかで妥協をしたり、適切な着地点を見つけたりしていく必要があります」
――ほかには?
話し合いをしながら、着地点を探ることも
「教師が見つかりにくいという点ですね。とにかく人が足りない。そもそもオランダ全体で教員不足なのですが、このような指導ができる教員や、この学校のコンセプトに合う考えを持っている教員はもっと少ない。それでも最低限の人数は必要なので、どこかで妥協をして採用をしなければいけないこともあるのです」



高橋謙太