教育現場の現状がつづくかぎり、いじめによる自殺はなくならない

教育現場の現状を紹介します。
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――八ヶ岳山麓から(151)――
7月7日、岩手県矢巾町の中学2年・村松亮君(13)は、駅に入ってきた列車にはねられて死んだ。鉄道自殺である。
以下報道にたよるが、彼が学級担任に毎日提出する生活記録ノートには、いじめや自殺をうかがわせる言葉をいくつも残していた。「暴力、悪口、やめてといってもやめないし」「もう市ぬ場所はきまってるんですけどね」「ボクはついにげんかいになりました。もう耐えられません」など。
この種の問題が発生すると、日本では社会全体がきまった反応をみせる。
まず、マスメディアは学校に批判を集中させ、担任教師と校長の無能をなじる。校長あるいは副校長などが「教師から報告がなかった」とか「いじめといえるかどうかわからない」などといい、地方教育委員会は「学校から報告があれば対応できたのに」などと弁解し、たいてい対策プロジェクトチームを作るという。そして人々の怒りは(テレビなどに誘導され)学校と教師に対して破裂する。
今回もまったく同じである。
私は、8日朝「モーニングバード」(テレビ朝日系)に教育評論家の尾木直樹氏が出演して、「学校の体をなしていない」と激しく非難し、担任教師や校長を「失格だ」と漫罵したのを見た。――だが、ほかの学校はどうだ、似たようなものではないか。
信濃毎日新聞(2015・07・10)社説も「教訓がかすんでいる」と題して、「子どものSOSがまたも見過ごされた。やりきれなさが募る」とか、「(教師は)子どもの心の叫びをどこまで深刻に受け止めていたのだろうか」という。――ここにいう教訓とはなんだ。
校長は今回担任と村松君のノートのやり取りについても「担任から聞いていない」と話し、 7月7日に開かれた保護者会でもいじめの有無を説明しなかったという。――校長は学校を代表して表に出るが、クラスや生徒をいちいち知っているわけではないから、たとえ誠実な人でもその発言はまぬけな印象を与える。
矢巾町教育委員会は遺族の意向も踏まえ、いじめがあったかどうかや学校の対応について第三者委員会を設置し調べるという。また今春の教職員や生徒への調査が実施されていれば「調査で生徒の自殺前に何か手がかりをつかめた可能性は否定できない」とも話している。――これは責任逃れといわれても仕方がない発言である。第三者委員会など何かといえばつくられるが、いじめ防止の役には立たない。アンケートでは事態がわかりにくいのはやってみればわかる。
校長の発言があいまいのうえに、他の教師たちは箝口令をしかれているから村松君を取り巻く環境がわかりにくい。私もメディアの報道だけから判断するしかない。
たしかに担任教師のノートでの対応はとんちんかんであった。だが、同級生は「いい先生だ」と擁護している。これだけ村松君がノートで訴えているのだから、担任を信頼していたに違いない。だからこの前後に何があったかわからないと本当に担任が「教師失格」なのか判断できない。
担任の責任を問うためには、クラス内のいじめが同僚や校長に漏れれば評価が下がると思って囲い込んでいたか、村松君の窮状を知ってから傍観者である生徒も引入れて問題を解決しようとしたか、そのために他の教師の協力を頼んだか、教師集団は問題をどのくらい知っていたか、知っていたならどう対処しようとしたかなどが明らかにされなければならない。
友人によれば文部省の全国調査では、いじめ問題は村松君と同じ中学2年1学期に集中しているという。なぜこの時期に問題が起きやすいか、憶測は可能だがしっかりした分析はできていない。
私は、これを解明するためには加害生徒集団の実態を明らかにすることが重要だと思う。どのような生徒を中心にいつごろから形成され、彼らの学校内外の日常がどのようなものであり、教師集団はこれにどう対応していたか。
早い話が生徒間の暴行を教師が知ったとき、口頭で叱ることはできても(現にこの担任は叱っている)、これを根絶することはできない。私の現役教師時代のことを考えても、暴力と脅迫で向かってくる生徒に反撃できる教師は少なかった。加害生徒たちはたいてい教師には手に負えないほど強固で、しかも柔軟狡猾である。
村松君はあからさまな暴行を加えられており、それを多数の生徒が目撃しているが、この状況は30年以上前から続いている。文科省は確かにいじめ対策法を作った。矢巾町の中学もそれに対応する体制を一応整えている。だが官僚が発案した法律ではものごとの解決にならなかった。
学校は数十年前からかなりの児童生徒にとって怖いところ、教師にとっては危険で厳しく汚い3K職場になった。ところが、いまも教育行政も学校も教師もこの教育現場の惨状に対応できるだけの力量を持ち合わせていない。



大越菜央