受験生のみなさんへ(内田樹の研究室)③

内田樹の研究室より転載します
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(②のつづきです)
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 2017年の3月には英国の自然科学のジャーナルであるNatureが同じく日本の科学研究の劣化についての研究論文を掲げました。かつては世界のトップレベルを誇っていた日本の科学研究が停滞している実情を伝え、日本は遠からず科学研究において世界に発信できるような知見を生み出すことのできない科学後進国になるリスクがあると警告を発しました。
 米国の政治外交専門誌と英国の自然科学学術誌が相次いで日本の大学教育の危機について報道したというのはよく考えると「変な話」です。海外の教育学者が指摘したというのなら分かりますが、指摘してきたのは政治外交と自然科学の専門誌だからです。

 自然科学は国境や国益とは関係のないグローバルな領域です。あらゆる国籍、あらゆる人種、あらゆる宗教の人が自然科学の進歩という共同作業にかかわり、その果実は人類全体が享受できる。その人類的なスケールの活動にこれまで豊かな貢献を果たしてきた日本の関与が期待できなくなる。それは人類にとっての損失です。おそらく海外の科学者はそれを悲しんだのです。

 一方、米国の政治外交専門誌が日本の学校教育に警告を発したのは、日本の国際政治のプレイヤーとしてのプレゼンスが低下するリスクを重く見たからです。米国にとって日本は東アジアにおける最大の友邦であり、「属国」です。このまま日本の知的衰退を放置していたら、それは米国の国益に悪い影響を及ぼすリスクがある。だから、日本の学校教育は「前産業時代に特化した時代遅れの教育システム」であるというよう激しい言葉が用いられた。それは米国人からすれば、一種の「友情」の発露でもあったと僕は思います。早く失敗を認めて、手立てを講じろ、と。

 米英二国から日本の学校教育の失敗についての指摘があったことにはそれなりの歴史的意味があると考えられます。米英両国は大西洋憲章ポツダム宣言以来、戦後日本の国のかたちについて制度設計の責任を(部分的には)感じています。はやばやと世界帝国であることを止めた英国はともかく、米国は今も戦後日本のシステムに対して(宗主国としての)責任と権限を自覚しています。日本の国力が衰微したら、それは盟邦としての米国の国益が損なわれるだけでなく、戦後日本社会の設計と運営にあたっていた米国の責任でもあるからです。

だから、「友情ある苦言」はまず米英両国から到来した。そういうことではないかと思います。中国や韓国やASEAN諸国からは日本の学校教育に対する批判的なコメントが来ることはまずありません。日本が教育に失敗して、国力が低下しても、それは彼らからすればまさに「対岸の火事」に他ならず、東アジアにおける日本のプレゼンスの低下など痛くも痒くもないからです。
ですから、友邦から海外から日本の学校教育について警鐘が鳴らされているということを日本の教育関係者は厳しく受け止めなければならないと私は思います。けれども、この事実について日本のメディアではほとんど報道がなされていません。なぜか。
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(④につづく)

 

 

 

孫市