寮という「場の教育力」は、教育の未来に何をもたらすのか。チェルシーハウスの試み

LIFULL HOME'S PRESS より引用
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■2014年、武蔵野の地に『チェルシーハウス国分寺』が誕生

学生寮といえば、昔は大部屋中心で、寝食をともにしながら生涯の友情を育む場というイメージが強かった。だが、近年は寮の個室化・マンション化が進み、学生同士の交流の場としての性格は薄れつつある。そんな中、寮ならでの教育的付加価値を見直そうと、「教育寮」なるコンセプトをうたった学生寮が増えている。2014年3月、東京・小平市に誕生した『チェルシーハウス国分寺(以下、チェルシーハウス)』も、その1つだ。

「大学時代は、利害関係がない友人を作る最後のチャンス。専門が異なる学生同士が寮で共同生活を送ることで、いろいろな学び合いが可能になります。人と人との交流を通じて、他人との違いを楽しみながら自己理解を深め、大学では得られない学びを得る――チェルシーハウスは、そんな寮を目指して出発しました」
同寮を運営するNPO法人ニューベリー理事・小崎文恵氏はこう語る。

チェルシーハウスの特徴は、寮生の成長をうながすさまざまな仕掛けにある。なかでも、最大の目玉とも言えるのが「メンター制度」だ。これは、各分野で活躍する社会人が、ボランティアで寮生をサポートするシステム。また、各種イベントも充実しており、社会人や外国人留学生と交流する機会には事欠かない。あの手この手で寮生に学びと成長の機会を与えよう、というのが、この寮のコンセプトとなっている。

■社会人や地域との交流により、学生の成長を加速

現在、チェルシーハウスでは、学生の自立と成長を支援するためのさまざまな取り組みを行っている。
その1つが、寮の自治を支える「班会議制度」だ。これは、さまざまな学年の寮生が6~7名1組で毎月定例会議を開き、寮内のルール作りや問題解決を行うというもの。寮生の自立心を養い、チームワークやリーダーシップを磨く格好の機会となっている。

また、寮生の学びを深めるため、各界で活躍する社会人や研究者を寮に招いてのトークイベントも定期的に開催。昨年は、反貧困ネットワークを主宰する法政大学教授・湯浅誠氏を講師に招き、第1回「チェルシーアカデミー」が行われた。これは、法政大学に通う寮生が、湯浅教授との間をとりもつ形で実現したものだ。

こうした学びの場は、都内だけにとどまらない。
昨年9月、チェルシーハウスは島根県と連携して、江津市で2泊3日の「地域課題解決型スタディツアー」を行った。ツアーに参加した寮生は、現地の瓦産業や茶農家を訪ねてヒアリングを実施。地域の課題と解決策について自分なりの考えをまとめ、プレゼン発表やレポート提出を行った。
近年、地域と連携した社会参加型の教育プログラムに力を入れる大学は増えているが、学生寮が独自にこうしたプログラムを展開している例は珍しい。
チェルシーハウスの取り組みは、後述するように、寮生の進路選択にも大きな影響を及ぼしているようだ。

■海外志向が強く、大企業よりベンチャーNPOを選ぶ寮生たち

では、チェルシーハウスでの暮らしは、寮生にどのような変化をもたらしたのか。
小崎氏によれば、全般的な傾向として、寮生の「海外志向の強さ」と「留学経験者の多さ」が目立つという。
だが、それは単なる海外への憧れやグローバル志向とは一線を画しているようだ。

「ここの寮生には、発展途上国への思いが強い子が多い。たとえば、途上国の子どもたちのために教科書を作って普及させる仕事をしたいという子もいれば、農業を学んで途上国のプランテーションの充実に貢献したいという子もいます。一口に海外志向といっても、明確な目的を持っている寮生が多いという印象です」(小崎氏)

こうした寮生の志向が如実に表れているのが、卒業後の進路の選択だ。
チェルシーハウスの寮生の多くは、いわゆる”名門大学”に在籍。新卒採用が学歴重視を強める中、就活でも有利な状況にある。にもかかわらず、寮生の大半が安定志向とはほど遠く、大企業や役所よりも、人材や教育、社会貢献に関わる企業やNPO法人を就職先に選ぶ傾向があるという。

チェルシーハウスでは、多様な働き方をしている社会人に会う機会が多いので、その影響は少なくないと思います。大学生がいざ就活しようとしても、企業に就職する以外の選択肢はなかなか思い浮かびませんよね。でもここにいると、仕事の選択肢はほかにもたくさんあって、自分がやりたいことを実現する方法があることもわかってくる。それに、メンターとの交流会で、『自分は何をやりたいのか』について話す機会も多い。その積み重ねの中で、寮生は進路について、自分なりの考えをまとめていくのかもしれません」(小崎氏)

■全人教育の場としての「教育寮」の可能性を追及

試行錯誤の2年間を経て、チェルシーハウスはようやく安定軌道に乗った。
そこで培ったノウハウを活かし、ニューベリーは昨年9月、新たに「教育寮事業部」を発足。島根県の「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」とも連携し、今年6月「教育寮オープンラボ」を立ち上げた。ここを情報発信とネットワーク作りの拠点とし、全人教育の場としての教育寮の普及に向けて大きな一歩を踏み出したのである。

その一環として、長野県白馬村の教育寮の運営マネジメントを担当。また、学生寮のリニューアルや新設を検討している大学から、チェルシーハウスの取り組みを参考にしたいという話も舞い込んでいるという。

「これからは、教育寮オープンラボを拠点として、教育寮についての情報発信力を高めていきたい。ユニークな教育寮の事例やチェルシーハウスの取り組みを紹介しながら、寮関係者が互いに学び合う場を作り、全体的な寮のレベルアップを図っていけたらと考えています」(小崎氏)

地域社会が、人間教育の場としての活力を失って久しい。そんな中、教育寮という新たな分野の先鞭をつけたという点で、チェルシーハウスの取り組みは画期的といえる。
教育寮は、日本の教育の未来に何をもたらすのか。今後の展開に注目していきたい。


チェルシーハウス
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根木貴大