社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない(2/2)

yahooニュース リンク より、以下転載 つづき
---------------------------------
■「答も式も自分たちで考える」という感覚
 体育祭を大いに盛り上げた応援団も、生徒たちが自ら考え誕生したものだった。クラス対抗で行われていた昨年までは、そもそも応援団がなかったのだ。

 東軍応援団長を務めたMさん(3年生男子)と、西軍応援団長を務めたYさん(3年生女子)は、まったく前例がない中でリーダーの重圧と戦いながら本番までの日々を過ごした。

「応援団のエールや振り付けは、ネットの動画をたくさん見て真似をしました。『どうせならガチでやりたい』と思って研究したんです」とYさんは話す。代々受け継がれてきたかのように見えたあの応援団の動きは、実は動画視聴サイトを教材にして学んだものだった。

 東軍のMさんは、前例のない応援団作りの苦労話を教えてくれた。

「『みんなが楽しめるように』という目的ははっきりしているけど、そのために何をするかで応援団メンバーの意見が分かれることもありました。みんなの意見を取り入れていかなきゃいけないけど、団長の役割を果たすためには自分の意志もはっきり伝えなきゃいけない。エールの方法や振り付けの動きを議論したときには、たくさんのアイデアが出て、最終的に自分がきっぱり決めなければいけない場面もありました」

 2人の苦労は、20名弱の応援団メンバーを率いることだけにとどまらない。全校生徒を二分した、東軍・西軍それぞれ約200名の生徒たちにもエールを教えていかなければならないのだ。グラウンドを使って全体の隊列練習も行ったが、雨が続いて予定をつぶされてしまうこともあった。

「応援団が前に出て全校生徒の前で発表する機会があったんです。声出しの練習を兼ねて全員でコールをしようとするんですが、最初はみんな恥ずかしがって声が出ませんでした。『ここで盛り上げられないと当日は楽しめない』『自分たちが楽しめれば、見てくれる人も楽しんでくれるはず』と思いながら、応援団のメンバーと一緒に頑張りました」(Yさん)

 体育祭の当日は、2人の団長を中心にして会場から大きなエールが聞こえていた。何もかも初めてづくしの応援団の挑戦は、見事成功したのだった。

 ここまで自分たちで考え、やりきった背景には、工藤氏からの力強いメッセージがあったのだという。Mさんは「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで企画し、自分たちで実行してほしい」という言葉が強く印象に残っていると話す。

「よくテストであるような、『先に答を出されて式を埋めていく』という感じではないんです。『答も式も自分たちで考える』という感覚です」

 そんな先輩たちの姿を見て、後輩も刺激を受けているようだ。応援団に参加したある2年生男子は、「種目もルールも応援団も、最初から決められているものだと思っていました」と振り返る。「自分たちで自分たちの体育祭を作るのは大変だとも思っていましたが、やってみるととても面白かった」とも。

 来年も麹町中で体育祭が開催されるかどうかは分からない。もし開催されるとしても、今年とはまったく違う風景になっているのかもしれない。

■きつそうだけど、忙しそうだけど、先生たちは楽しそう
「社会に出たら、何もかも指示されるなんてことはない。だから自分たちで企画し、自分たちで実行してほしい」

 工藤氏のメッセージを体現するかのように体育祭を準備し、成功させた生徒たち。彼らの目には、今の大人はどのように映っているのだろうか。最も身近な存在として「先生たち」の印象を聞いてみたので、最後にぜひ紹介したい。記事にするために最低限の編集を加えているが、脚色はない。

「体育祭だけじゃなく、自分たちで企画する修学旅行なども、先生たちはほとんど関わりません。でも私たちが困っているときには、遠くでいろいろと考えてくれているのが伝わってきます。『あの子たちはこういうところで困るんじゃないかな』と、先を見て考えてくれているのを感じます」(実行委員長Mさん/3年生女子)

「自分たちで考えるというスタイルにさせてもらっていることにありがたみを感じています。ヒントは与えてくれるけど、答は教えてくれないという感じです。例えば体育祭なら、『みんなが楽しめる』という目的に沿って自分たちで企画できる。この環境に報いたいという思いがあります」(2年生男子)

「いろいろと自由にさせてもらっているな、と思います。自由な分だけ厳しいところもあるけど、とにかく自由。先生たちも自由で、過去のことにとらわれていません。『先生はその自由さが逆にきついんだろうな』とも思います。だけど楽しそう」(西軍応援団長Yさん/3年生女子)

「先生たちもまだ、この学校の独特の環境に慣れていないんだと思います。新しいことや難しいことに取り組んでいて、先生も挑戦している感じ。それがきつそうなんだけど、楽しそうに見えます。きついことや経験のないことをやるからこそ、楽しみが生まれていくんじゃないかと思いました」(東軍応援団長Mさん/3年生男子)

「麹町中は、先生同士の仲がとても良いことが伝わってくる学校です。生徒同士が仲良くできるよう、先生たちも協力しているから、自然と仲良くなれるのだと思います。自由な風土の中で、『忙しそうだけど楽しそうだな』という印象です」(生徒会長Aさん/3年生男子)

 きつそうだけど、忙しそうだけど、先生たちは楽しそう――。自分の頭で考え、悩みながらも前に進む大人を見ているからこそ、麹町中の体育祭は「生徒のもの」として生み出され、形になったのではないだろうか。

 生徒たちの言葉は、工藤氏がすべての教員と共有する「麹町中の最上位目標」とリンクしているようにも思う。

「世の中まんざらでもない! 結構大人って素敵だ!」

 麹町中の改革は、着実にその実を結びつつある。
---------------------------------

 

 

 

 

山上勝義