学びのしくみ~子どもの言語学習から学ぶ(1)~子どもの言語の習得の過程とは知識をシステムとして作り上げていく過程

今井むつみ氏の著書に「学びのしくみ」という本がある。
タイトルだけでも非常に読みたくなる本だが、内容も期待通りのかなり学びに迫る本質的な事が書かれている。数回に分けて著書の中から紹介したい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私たちはみな、母語の達人である。私たちは母語をあたりまえのように使ってコミュニケーションをとり、学びを考えている。しかしその背後には膨大な量の知識があることを意識している人はほとんどいないだろう。実際には言語の音の特徴や文法に関する深い知識、そしておびただしい数の単語の意味と使い方を知らなければ、ことばを話したり書いたりする事はできないのである。

 外国語を学んだことがある人なら誰でもそのことは身にしみて知っているだろう。長い時間と多大な努力を費やして外国語の文法や単語をたくさん覚えても、ちょっとしたことを言ったり書いたりするのも苦労する。
外国語を母語のように使いこなすことができるほど熟達するためには、特別な才能が必要だと思っている人が多い。それなのに、なぜ子どもは誰でもやすやすと母語の達人になることができるのだろうか。 

 私たちが授業で外国語を学習する時、テキストの中の文はすでに単語に区切ってある事がほとんどで、新出単語がリストされ、日本語訳もつけられている。つまり、私たち大人は外国語を学習するとき、聞いた発話の中から探しだすことはほとんどない。また、大人は文法や単語は知らなくても、どんな言語にも共通する言語に関する多くの知識を持っている。
例えば、言語は単語という要素から成り立っていること、それぞれの単語には意味があること、単語には名詞、動詞、形容詞など、異なる種類があって、文の中で担う役割がそれぞれ異なること、など。

一方、子どもにはテキストも辞書もないので、自分に語りかけることばや、周りで人が話している会話だけを材料にしてすべてを自分で発見しなければならない。英語のテキストでは単語と単語の間にスペースがあるが、会話の音声では、単語と単語の間の明確な区切りはないので、子どもは自分で会話を単語に区切っていって単語を1つ1つ自分で発見するしかないし、発見した単語の意味も自分で推測するしかない。
子どもがことばを学習するとき、大人からことばについて直接教えてもらう事はしない。大人は子どもに言語を使ってみせることはできるが、ことばを使ってことばについて直接教える事はできないのだ。

しかし考えて見ればこれは不思議なことである。人はそこに結び付けられる知識を持たない情報は記憶する事も学習することも難しい。ところが、乳児はことばを学習するときに、ことばに関する知識をほとんど持たない。最初のうちは単語もほとんど知らないから、ある単語の意味をことばで説明することもできない。それなのに、子どもはあっという間に多くの単語を覚え、文法を覚え、話ができるようになり、知識をどんどん増やしていくことができる。

言語を使うにはその言語の音、文法、語彙、について知識がなければならないが、それぞれの要素についてどんなに多くの知識を持っていてもそれだけでは言語は使えない。それらの要素の知識が互いに関連づけられたシステムになっていなければならない。英検一級、TOEICで高得点が取れるのに英語を自由に使えない人は要素の知識はたくさん持っているのに、それらがシステムになっていないのだ。

言い換えれば子どもの言語の習得の過程とは知識の断片を貯めていく過程ではなく、知識をシステムとして作り上げていく過程に他ならない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 


田野健