ダイソンが「給料の出る」大学をつくった事情

掃除機で有名なダイソンが面白い。まず、若手の方が柔軟な創造性を持っているという視点。若手の失敗は成功への糧とする組織風土だ。さらに、ダイソン工科大学の開学。初年度220万円の給料をもらいながら、週の大半を仕事をしながら学ぶ。卒業後、ダイソンに入社しなくてもよいという。

人材を育てるという点でも、興味深い組織だ。
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ダイソンが「給料の出る」大学をつくった事情
平均年齢26歳、凄腕技術者育てる「虎の穴」
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(前略)
▼エンジニアの平均年齢は26~27歳

では、なぜダイソンは革新的な製品を出し続けることができるのか。『週刊東洋経済』1月12日号(1月7日発売)では、ダイソンが持つ3つのコア技術からその秘密を解き明かしている(発明王ダイソン、「強さ」の秘密)。だが、秘密は他にもある。それは、開発の最前線に立つエンジニアの年齢がとにかく若いことだ。

2017年末時点で4450人が在籍するエンジニアの平均年齢は26~27歳。本社があるイギリスの場合、学部新卒は21歳なので、大学院に進学しなかった場合でも社会に出て数年の新人ということになる。ちなみに、日本の電機メーカー・ソニーの社員平均年齢は42.3歳、パナソニックの場合は45.6歳だ(エンジニアのみの平均年齢はともに非公開)。

(中略)

▼ダイソン氏の強いこだわり

11月初旬に記者がシンガポールの研究開発拠点を訪れた際も、ラボに詰める顔触れは若々しい。同拠点で、エアラップの開発の一環で毛髪科学を研究してきた男性エンジニアに至っては、新卒でダイソン入社して10カ月目にすぎなかった(2018年11月時点)。イギリス本社の研究開発チームと連動して動き、同製品のために合計1800キロメートル分の毛髪を調査、その髪質やクセを解明するという、地道な活動を行ってきた。

若手エンジニアがこうも活躍している背景には、創業者であり、現在も全製品を世に送り出す最終判断を行っている、チーフ・エンジニアのジェイムズ・ダイソン氏の強いこだわりがある。

2018年に記者のインタビューに答えたダイソン氏は「人間は、若いほど創造性が豊かだ。たとえば学生と接していると、『そう来たか』とうなるような斬新な発想がたくさん出てくる。だからダイソンは、あえて(大学院卒や中途ではなく)新卒の学生を中心に採用している」と語る。一方で、「私は専門家が嫌いだ。何かを一からインプットする、まったく新しいアイデアを考えるといった柔軟性がないからだ」と手厳しい。

もちろん、若手エンジニアがいくら斬新な発想をしても、それが上司やセールスサイドの意見で角が取れたり、ボツになれば元も子もない。だが同社バイス・プレジデントのジョン・チャーチル氏は「エンジニアの間に年齢や立場による上下関係は存在しない」と断言する。開発の過程での失敗はむしろ推奨される。ヘア・ケアカテゴリの責任者、グレアム・マクファーソン氏は「失敗は変化を起こすために必要なものと考えている。管理職は、どうぞ失敗してください、というスタンスでいることが重要だ」と語る。エアラップの場合、約6年の開発期間でプロトタイプを650個も作ったという。

若手の発想力を武器にするダイソンにとって、何より重要なのは優秀な若手エンジニアの卵が育つこと。だが、イギリスにおいてエンジニア職の人気は低く、イギリス企業は毎年7000人近いエンジニアの不足を、海外での求人で補っている。そこでダイソン氏は、本社の敷地内に4年制大学まで作ってしまった。自身の財団とダイソンからの約32億円の出資をもとに、2017年に開学したのが「Dyson Institute of Engineering and Technology)」だ。日本語に訳すとすれば、ダイソン工科大学といったところか。

最大の特徴は、初年度1万6000ポンド(約220万円)の給与を受け取りながら教育を受けられることだ。学生たちは、1~2年生のうちはエンジニアリングの基礎を、3~4年生になると電機・機械工学を中心としたプログラムを履修し、卒業すると学士号を得ることができる。それと並行して、授業期間中は週3日、学期外は週5日、エンジニアとして実際の業務に従事することになる。勤務地はイギリス本社のみならず、研究開発拠点のあるシンガポールや、電気自動車(2021年発売予定)の極秘開発が進められているイギリス・ハラビントンのオフィスで働く機会もあるという。

▼若手開発者がイノベーションの源泉に

このプログラムは一躍話題を呼び、2017年9月からの第1期生には25人の定員に850人の応募者が殺到した。中にはケンブリッジなどの一流大学を蹴って入学した学生もいる。大学設立の目的はエンジニア不足という社会問題を解決することであり、卒業生はダイソンに入社する義務はない。ただこれにより同社の開発現場がさらに刺激されていることは確かだ。そしてもちろん、開発が若手のみで成り立っているわけではない。商品を完成へ導くうえでは、ベテラン陣の経験と知識がものをいう。

「下積み期間」を設けず、フレッシュな感覚や仕事への貪欲さをイノベーションの源泉として活用できる企業風土。この重要性を理解していたとしても実行できている企業は、少なくとも日本の大手では少ないのが現状だ。ダイソンが製品の斬新さで他社を凌駕する理由の1つはここにある。
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(引用以上)

 

 

 

小平健介