「ブラック校則」どうすれば――学校現場に変化の兆しも

■「学校は密室。誰も立ち入れない」

(中略)

陽子さんは「学校が強制収容所のよう」と言う。

「学校の雰囲気がおかしくなっています。小学校のときは普通だった子が急に髪を染めてきたり、物を壊したり。子どもたちの必死の抵抗だと思います。中学生のこの子たちに、大人の言葉をひっくり返すほどの反論はできないから」

理不尽なルール、生徒が生徒を監視するかのような指導。これらについて、陽子さんは何度か学校側と話し合いの場を持った。その記録によると、校長は「方針を変えるつもりはない」と答えている。教育委員会文部科学省に相談しても「学校のルールは校長に一任している」と言われたという。

「どこに訴えても変わりません。全ての権力は校長にあって、密室で誰も立ち入れないんです」


■「下着の色指定」今も

「学校の校則やルール、それに基づく指導がおかしいのではないか」――。2017年秋ごろから、そんな声が急速に広まった。きっかけは、大阪府立高校の女子生徒が、生まれつき茶色い髪を黒く染めるよう学校に強要されたとして裁判を起こしたことだ。

その後、NPO法人キッズドア代表の渡辺由美子さんらは「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」を立ち上げ、10〜50代の男女2000人を対象に実態を調査した。その結果、興味深いことがいくつか浮かび上がってきた。

例えば、「下着の色」。

「下着の色が指定されている」という校則を中学時代に体験した10代は15.8%、高校時代でも11.4%いた。「下着の色をチェックされた」という10代も2.5%。自由記述欄には「修学旅行で白でない下着を没収され、2泊3日をノーブラで過ごした」「放課後に男性教諭から呼び出され、『下着青だったんでしょ? 白にしなきゃダメだよ』と言われた」などの回答があった。

渡辺さんはこう話す。

「セクハラがこれだけ問題になっているのに、いまだに下着の色を指定する校則が存在する。世間の感覚とずれてしまっています」

(中略)

「『学校を変えるぞ』と生徒会に入ったけど、先生に突っぱねられて何も変えられなかったという子もいました。取り合ってももらえなかった。すると、『頑張っても何も変えられない』という意識が染みついてしまいます。

(中略)


■生徒の動画が変化を後押し

生徒や保護者の声に動かされ、ルールを変えた学校もある。広島市立牛田中学校はその一つ。きっかけになったのは、PC放送部の生徒たちが作り、YouTubeに投稿した「The School Bag is Heavy!!」という動画である。投稿は2018年2月のことだ。

同校には「置き勉禁止」というルールがあった。

2017年の秋、地元の中国新聞が通学かばんの問題を取り上げ、「かばんが重い」と訴えた牛田中の生徒の投書も掲載された。それを受け、三村千秋校長が「置き勉禁止のルールを見直してはどうか」と保護者や教職員に投げ掛けたという。

意見は割れた。

「子どもの負担が減る」という賛同の声。「家で勉強をしなくなる」「教室が汚くなる」「ものがなくなったら誰が責任を取るのか」という心配の声。

そうしたさなか、この動画が制作された。

動画の冒頭、男子生徒が通学かばんを背負って坂道を上ってくる。重さを量ると18.4キロ。女子生徒が「18キロを2リットルのペットボトルで考えてみると」と言い、画面にはペットボトル9本を積み上げる様子が映し出される。

「重すぎて後ろに倒れそうになった」といった生徒の体験談に加え、昔に比べて教科書が大きく厚くなっていることや、重すぎる荷物の身体への影響を心配する養護教諭など教員の声も盛り込んだ。

(中略)

完成した動画は市が主催する文化祭で優勝して反響を呼び、テレビや新聞で取り上げられ、さらに注目を浴びた。

そして動画投稿から2カ月後の2018年4月、学校のルールは変わった。宿題が毎日ある国語と英語の教材以外は「置き勉」をしても構わないことになった。

PC放送部の顧問・熊谷貞夫さんは「生徒が作った動画が(ルールを変える)最後の一押しになりました」と言う。一方で、「学校のルールを守らせる立場の教員としては、勇気のいる内容でした」とも打ち明ける。

(中略)

「先生と生徒が信頼関係で結ばれる学校にしたい」――。制作した動画はこの言葉で締めくくられている。


■「校則で非行防止? 説明になってません」

名古屋大学准教授の内田良さんは、学校には特殊な文化があると指摘する。

「一般社会なら許されないことが『教育のため』という名目で許されてしまう。例えば、体罰は暴行・傷害事件ですが、学校では『教育』を理由に強い処分が下りません。“治外法権”になっています」

下着の色、靴下の色、スカートの長さ、髪形の指定など、学校にあるさまざまなルールに対して、内田さんは「どんな根拠があるのか」と問い掛ける。

「靴下の色や模様の教育効果なんて説明がつかないですよね。『校則を厳しくすれば学力が上がる』『派手やおしゃれが非行の出発点だ』と考える学校文化があります。スカートが長くなったから成績が上がるとか、非行をしないとか、冷静に考えたらあり得ません」

(中略)


■学校は変わっていかなければならない

牛田中学校の生徒に話を聞くと、校則に対しての要望はまだまだあることに気付く。「男子だけ靴下が黒と紺も許されている。ずるい」「靴は(男女とも)白のみでダサイし、(白は)すぐ汚れる」「指定のかばんの肩紐が細くて痛い」……。

動画を発案した足立さんは「校則について改めて考えてみると、おかしいと思うものがあれば、(存在理由に)納得するものもありました。当たり前だと思っていたルールも(本当にそれでいいのかどうか)話し合って見直していけたら」と言う。

顧問の熊谷さんは「社会が大きく変わっていく時代に、学校も変わっていかなくてはいけない」と話す。

「これからはルールづくりにも生徒が入っていく。一方通行はもうだめだと思います。今回の置き勉では、学校が一方的に決めるのではなく、PC放送部が活躍できたことは大きかった。変わり方が良かったと思う。自分たちも学校を変えていく一人だという意識にもつながります」

足立さんは昨秋の生徒会選挙で文化委員長になった。その選挙では「(今は校則で決められている)夏服と冬服を切り替える時期を、自分たちで判断するようにしたい」と訴えた。

 

 

 

紀伊谷高那